集英社デビュー50周年記念 一条ゆかり展(覚え書き)
弥生美術館で開催中の「集英社デビュー50周年記念 一条ゆかり展 ~ドラマチック!ゴージャス!ハードボイルド!~」を観に行きました。
小学生の頃、夏や冬の休みにおばあちゃんちに行くと、叔父と叔母が暮らしていた部屋の棚には「有閑倶楽部」などの少女漫画が十数冊、あと星新一の文庫本が数冊。読んでいいよーと言われていたその作品たちを集まった従姉妹たちとかわりばんこに読んでいたのが、漫画本や文庫本に触れた原体験でした。
それらの作品は大人になってからじっくり読むことも少なくなっていたけど、やはり原画を観られるのはめったにない機会だし行ってみよう!と思い、向かいます。
途中でいい感じの店構えを見かけて寄り道。石井いり豆店さんでいり豆とおかきを購入。美味しかったです。
緑と坂の多い散歩を経て、弥生美術館に着きました。
1階が常設展示、2・3階が企画展の展示室ということで順路は2階から。
館内撮影不可で、こんな感じです。
開催中の一条ゆかり展、本日より中期展示が始まりました!カラー原画58点が入れ替わっています。「デザイナー」「砂の城」「有閑倶楽部」「プライド」などの美しい原画は必見です。中期展示は11月25日(日)まで。ぜひご覧ください#一条ゆかり #一条ゆかり展 pic.twitter.com/TEYyoTcgwW
— 弥生美術館・竹久夢二美術館 (@yayoi_yumeji) October 30, 2018
時系列での展示は幼少期のエピソードから始まります。
“「自分が貧乏だったから貧乏くさい漫画は嫌だ」と考え、映画のようなスケールの大きな作品を描きたいと思っていました。
貧乏という境遇が大嫌いだった一条は、小学生の頃からアルバイトをしており”自立”を目指していました。女性にとって”仕事”は自分を守ってくれるものなので、人生の保険として手放してはいけないと語っています。”
(「貧乏だった子供時代」のキャプションより抜粋)
最初からいきなり金言が登場して、前に行ったジョジョ展での「人間讃歌」という言葉が頭をよぎりました。
これは単に原画を観てニコニコするというより、もっとごつい展示なのでは…
という予感は的中していきます。
『りぼん』でのデビューは高校卒業と同時期ですが、それ以前には高2で既に貸本への投稿と掲載が数回あったとの記載。貸本…!
その1966年に発行された掲載誌、貸本『風車』も展示されていました。すんごい。これって近現代の文化史の領域なのでは。
デビュー当時の展示ゾーンにこそ「ザ・むかしの少女漫画」と言えそうなお目々キラキラの可愛らしい絵が並んでいますが、どんどんシリアス&ドラマティックに進化していきます。
1969年〜1970年代初頭の作品で長髪やドラッグというヒッピーカルチャー、タバコやお酒も作品内に登場。
1973年には『りぼん』ではご法度だった性表現に踏み出したとか。
作品タイトルのロゴの原案を自ら作ったり、とにかく開拓とこだわりの仕事を重ねてきた様子が伺えます。
70年代には「砂の城」「デザイナー」と行った初期の代表作が産み出されます。
80年代に入ると「有閑倶楽部」が。
第一話が(冒頭のカラーページのみコピーですが)一話まるまる生原稿で展示されています!!
印刷で読んできた絵の生原稿に出会うのって、当然ですがテンション上がるー!
一コマずつじっくり観ました。
このあたりから後追い含め、読んだことのある作品が増えてきました。
80年代の作品から一気に、コメディやエンタメ色の強いストーリー作りが見えます。端正な絵とのギャップがすごい。
当時の『りぼん』の付録コーナーもあり、レターセットや厚紙を組み立てるミニバッグ等々、これは良い年齢の私たちも子供に返りますね。。
90年代はエンタメとシリアス&ドラマティック、両方の路線で多作。黄金期と言えるのかも。
当時は特に網羅してまで読んではいなかったので、追いきれてない作品も多数発見して今後の楽しみが増えました。
『コーラス』で連載された1995〜1997年の「正しい恋愛のススメ」、こちらも第一話の生原稿がまるっと展示あり。
あー、これめっちゃ読んでた!けどお話どうなったんだっけ?と気になり、帰ってから全巻買い直しました。面白かったー。
2000年代は2003〜2010年連載の「プライド」。
ここで驚かされるのが、連載中の2008年からデジタル作画に移行していったというエピソードです。
ベテランであるほど移行には抵抗がありそうなイメージですが、この頃に発症した緑内障で視野が欠けるため、原画をスキャンして拡大し描き加えていくことにしたという経緯でした。
さらっと記されていましたが、納得いく内容になるまで相当苦労したであろうことは想像に難くないですよね。
しかもこの変化の年、デビュー40周年です。なんとお強いことか…。
自分はそこまでの覚悟で仕事をしてきたことがあるだろうか?とか考え込んでしまいました。
50年の現役生活、そのために犠牲にしてきたことも多いのだろうなあと思いつつ、常に進化していく作品作りへの姿勢がブレないところがすごい(「すごい」しか言ってない気がしてきました)。
貸本からデジタルまで現役で描いてきている漫画家であり、その50年の変遷をほぼ原画で辿ることができるこの展示。それだけでも貴重なのに、職業人としての一貫したプロ意識もビシビシ浴びることができました。
展示フロアは正直あまり広いわけではないのですが充実した展示なので、しっかり観ようと思うとかなり時間がかかります。行ったのは平日夕方で、幸運なことに貸切状態で観ることができました。
会期は12月24日まで。
観た日は中期展示でしたが、50点以上のカラー原画が入れ替わった後期展示も観たいし、閉館時間ぎりぎりになって常設展を見逃してしまったし、もう一度行ってみようかな?と検討しています。
帰りには今回のメインビジュアルのひとつに起用された「有閑倶楽部」イラストのポストカードと、書籍「THE一条ゆかり 集英社デビュー50周年イラスト集」を購入しました。
行けないけど気になるという方には、この書籍が今回の展示内容と連動しているので強くおすすめします。帰ってからも追体験できるし買ってよかったー。
そして美術館を出ようとしたら、自動ドアの外には猫が。出迎えてくれるかのように待機していました。
こちら、お隣の猫さんだそうです。
最後まで楽しませてもらいました。
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また会期中にはご本人来場でのトークイベントが3回も開催、随時コミックナタリーで記事化されています。
お話の様子も写真も楽しそうだし、第2夜でのルックスの変化!も現役感がすごーい。
12/8に開催された第3夜の記事化も楽しみです。
第1夜:
第2夜: